法制審議会が刑法の性犯罪規定を改正要綱を法務大臣に答申したそうで、注視すべき項目がいくつもあり、性交同意年齢を13歳以上から16歳以上に引き上げることが報道でも目立っています。
今回、中でも目を引いたのは、13歳から15歳までの子と性交をして罪に問われるのが「相手が5歳以上のある場合」と年齢差を明示したことと、「撮影罪」(盗撮罪)を新設したこと、そして性器以外の挿入も性交とみなすようにしたこと――でしょうか。
ほかにも注目点があるので概要をまとめておきたいと思います。
諮問機関とは何か
法制審議会は法務大臣の諮問機関で、要は何か法律などを変えるときに専議論してもらって大筋を固めるための専門家の集団です。大臣が諮問(意見を尋ね)、これを受けて議論した結果を大臣に答申(結果の伝達)をします。
ほかには、たとえば文部大臣の諮問機関には中央教育審議会や国立大学法人評価委員会などがあります。
なお、あくまで法律を改正するための法案をつくるための専門家アドバイスなので、正式に決まったわけではありません。法律は国会でどう改正するかを審議して法案が可決される必要があります。
今回の答申内容のポイント
今回の答申のポイントはこのあたりのようです(順不同)。
- 強制性交の罪の構成要件として8つの行為を列挙
- 性交年齢を13歳から16歳に引き上げ
- 撮影罪の新設
- グルーミング罪の新設
- 時効を5年延長
- 異物など挿入も性交とみなす
- 配偶者間でも強制性交の罪が成立することを明確化
それぞれザッと内容を確認してみました。
1 強制性交の罪の構成要件を追加、8つの行為を提示
現在の刑法では、強制性交の罪を問うには、相手の「同意がないこと」に加えて、「暴行や脅迫」を用いることなどが必要とされていますが、こうした行為がなくても怖くて断れない被害者もいるということで、今後は次の8つの具体的な行為があった場合もダメよ、ということにしたいようです。それは次の8つです。
- 暴行や脅迫を用いること
- 心身に障害を生じさせること
- アルコールや薬物を摂取させること
- 睡眠、そのほか意識が明瞭でない状態にすること
- 拒絶するいとまを与えないこと
- 予想と異なる事態に直面させ、恐怖させたり驚がくさせたりすること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること
- 経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること
かなり具体的にいろいろなケースを想定しているようです。暴行や脅迫をしなくても、ショックを受けさせてとっさにNOと言えなくしたり、長年にわたって虐待するなどして、無力感を覚えて拒絶の意思さえわかないようにしたりする場合も罪に問えるようにする意向のようです。
2 性交年齢を13歳以上から16歳以上に引き上げ
性行為の同意を自分で判断できるとみなす「性交同意年齢」が今まで13歳だったのが驚きですが、これを16歳に引き上げます。13歳というのは、当時は女の子が早くに結婚することが珍しくなかった明治から続いていたもので、あきらかに現実に即していません。
ただ、同年代の恋愛までも処罰されかねないという意見もあり、13歳以上16歳未満で「相手との間に5歳以上の年齢差がある場合」としているようです。15歳で5歳上というと20歳。大学2-3年生はNGということになります。
この年齢差の明示は、大きなポイントではないでしょうか?判例であるのかどうか調べていませんが、分かりやすくなる反面、そこが免罪符にはなるとも言えそうです。
なお、当然のことながら13歳未満に対してわいせつな行為をした場合は今と同様に罪に問われます。
3 撮影罪の新設
盗撮禁止ということですね。顔が分からなければいいということではなく、下着などの盗撮も対象になるようです。
音声はどうなるんだろうかと思って、審議会の資料を見ましたが、音声の録音については触れられてないようですね。
4 グルーミング罪の新設
グルーミングとは、性的な目的で子供に近づき、手なずけて心理的にコントロールする手法のこと。子供をだまして手なずけるのなんて、悪い大人には簡単ですからね。なお、被害者が13歳から15歳のケースでは、5歳以上の年齢差があることが適用の条件とのこと。
5 時効を5年延長
性犯罪は被害を受けてすぐは訴え出ることが心理的にできない場合が多いということで、公訴時効を延長するとのこと。
- 強制わいせつ等致傷 現在15年→20年
- 強制性交等・準強制性交等 現在10年→15年
- 強制わいせつ・準強制わいせつ 現在7年→12年
となり、また被害者が18歳未満の未成年の場合は、18歳に達するまでの期間がこれに加算される見込みです。
6 異物の挿入なども性交とみなす
現在の強制性交等罪では、処罰の対象となるのが、男性器(陰茎)を膣や肛門、口腔内に挿入する又は挿入させる行為ですが、「膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為」も性交と同等の扱いとするようです。
7 配偶者間でも強制性交の罪が成立することを明確化
上で紹介した8つの行為は、「婚姻関係の有無にかかわらず」罪になると明示するようです。
審議会は14回開催 答申を受けて次は国会へ
この審議会は2021年の10月から23年の2月までに14回開かれて議論してきたようです。都度、試案が示されており識者がそれに対して意見を述べてきており、ようやく大臣へ答申されました。
諮問機関からの答申を受けたことで、今後は法改正のための法案を審議するわけですが、政府は今国会に改正法案を提出したい考えとのこと。
まだまだ穴は多いのでしょうが、今の法律では救えないケースが生まれないようになるのはよいことだと思います。