歌舞伎町の民なら誰もが知っているであろう、佐々木チワワさんの『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)を読んだので、感想を備忘も兼ねて簡単にまとめておきます。
【新刊告知】
— 佐々木チワワ@新刊「歌舞伎町モラトリアム」 (@chiwawa_sasaki) October 8, 2022
「#歌舞伎町モラトリアム」
―嬉しいも、楽しいも、寂しいも、苦しいも全部この街にあった
歌舞伎町で生きた7年間の集大成です。ホストクラブを中心とした男と女の愛とお金のお話。
現在予約受付中、11/25日発売予定です!
今の担当との真実の愛対談も!https://t.co/LLhLCy8Kmd pic.twitter.com/KW5HylAsWF
佐々木さんといえば「ぴえん」
歌舞伎町の先輩として、注目している佐々木さん。初著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)は読んでいないのですが、いろいろな雑誌での連載は結構読んでいます。

あらためてプロフィールはこんな感じです。
2000年、東京生まれ。小学校から高校までを都内の一貫校で過ごす。窮屈な毎日に嫌気が差し、高校1年生の大みそかに初めて歌舞伎町に足を踏み入れる。以来、歌舞伎町で働く夜職の人々に惹かれ、自身も一通りの職種と幅広い夜遊びを経験。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では繁華街の社会学を専攻している。『週刊SPA!』(扶桑社)、『実話ナックルズ』(大洋図書)で夜の街に関する記事を執筆。
文春オンラインより
FRIDAYとかSpa!の連載はほとんど読んでると思うのですがが、先日たまたまKindle Unlimitedで読んだ実話ナックルズにも記事があってびっくりしました(と思ったけど、よく考えたら自然でもあった)。
佐々木チワワさんの青春歌舞伎町日記(笑)?
新刊は、四六判の並製、208ページ。税別1500円。表紙はマエガミマミさんによる、ちょっとセクシィな女の子のイラストで、カバーは箔押し。中の紙もやはり色味、手ざわりもこだわった感じで、斤量ありそうなのに208ページあっても厚みは1.5㎝におさえられています。

内容はエッセー集。15歳から歌舞伎町に行っていたという佐々木さんの、歌舞伎町での楽しかったり切なかったりした体験、そこで感じたことや思ったことが切り取られ、紹介されています。
バタ臭い言い方をすると佐々木さんの歌舞伎町青春ポエム日記といったところでしょうか。
ただエッセーだけではなく、歌舞伎町用語集や巻末にはホストとの対談もあって、歌舞伎町が今どういう街なのか、そこではどういう会話が交わされているのか、彼・彼女たちが何を考えて、どう毎日、夜を過ごしているのか……といったことも伝わってきます。
歌舞伎町という街が好きな人や思い入れのある人、ホストに狂った経験がある人にとっては特に共感できる内容ではないかと思います。
詩でありラブレターであり……
また、エッセー集と紹介しましたが、全編を通して詩のようでもあり、誰かに向けたラブレターのようでもあり、SNSの文章のようでもあります。実際に見開き~数ページにわたるエッセーの間には、詩も掲載されています。
中身のデザインも、特に詩などは大胆なレイアウトがされていて、おしゃれで若々しい一冊になっていると思いました。
そして感想ですが、読んでみて最初に感じたのは、「誰に向けているんだろう?」ということでした。兵長は歌舞伎町によく行くとはいえ、ホストクラブに出入りしているわけでもない、おそらく本書のターゲットではないであろうおじさんです。だから自分に向けたものではなく、そう感じたのかなと分析していました。
ただ、読んでしばらくたち、今はそれが誰なのか、なんとなく分かったような気がしています。
その中には、今まさに歌舞伎町でホストに通っている女の子たちも含まれるだろうし、そんな女の子たちを凝視するおじさんたちも含まれるだろうし、ホストや歌舞伎町は未経験だけど、近いうちに”初回”を経験しようと思っている予備軍の子たちも含まれるのかもなと思っています(まあ交縁のおじさま達は読まないような気はしますが)。
まだ大学在学中ってあらためてスゴイ
また、見た目のかわいらしさからは感じられないかもしれませんが、読んだ時は、「これってなかなかに重たいパンチなんじゃないか」とも思いました。
装丁やレイアウトを含めた見た目だけでなく、文章も構成も、とても若々しいんですが、そうした若さや、好きという気持ち、若いなりに感じている切なさ、(若さゆえの?)自意識みたいなものを、重たいパンチに乗せて届けられたために面食らったというか。たとえが分かりにくいかもしれませんが。
ひらたく言えば、「わけーなー」という感想ですね笑笑。
ただ、これは決してネガティブな評価をしているのではありません。
兵長は、異なる意見や好みに触れたとき、それを受け止めて理解(納得?)する人間だと(自分では)思っています。だから本書も「なるほどなぁ」と思いながら楽しく読めました。
それに、若々しさがいろんな意味で出ているとしても、それ自体が悪いことではありません。若い作家は若いなりのプレゼンをしたほうがいい。こなれた、オトナなアウトプットはもっと歳いってからやればいいわけですから。
とはいえ、作家本人も、若さが出ていることは自覚されているでしょう。本書のタイトルにも「モラトリアム」とあります。
そう「自覚しているだろう」と書きましたが、別に「自省しているだろう」ということではありません。おそらく、ジレンマやセンチメンタルな感情を持ちながらも、ある種の開き直りや自己肯定も伴っているはずです。
しっかりとテーマとスタンスがともなった書籍を、いいタイミングで出されたのではないかと、エラそうにも思いました。
……と、いろいろと述べてきましたが、実は、文章自体は兵長的にはあまり好みということでもありません。まあそれは好みの話であって、ダメだとかとやかく言うつもりはないのでご容赦ください。
そもそも、自身の体験や取材をもとに(ライターとして、ホストに通う歌舞伎町の民として)書かれている、自分の知らない歌舞伎町を教えてもらえるのはとてもありがたいことですし、大学在学中でここまで書けりゃあ、てーしたもんだと思っていますから。
あ、同じ慶應出身で夜の街に関する原稿をたくさん発表している鈴木涼美さんのエッセーは兵長的にとても好みなので、いつか何かでからんでもらえないかなと思いました(似た属性からして、メディアの立場からいうと対談はありえないでしょうから、企画が難しそうですが)。
以上、本当に感想というか、感想交じりの紹介でした。
歌舞伎町通ってる方は読みましょう。
